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「俺は困んねぇけど、子どもが困る」
「わたしも、こまる」
「劣性遺伝の可能性が高い以外に困る部分ないだろ」
「もっと倫理的な問題でしょ」
「男と女の間に倫理観なんてないだろ」
もっともそうなことを言って、私を笑っている。子どもを作る気なんてないだろうに、私を揺さぶって遊んでいるのだろう。最低な趣味だと思う。
それなのに突き放せない私の方が最低だ。
「淫乱美里ちゃんが俺の子身ごもったって知ったら、全部ひっくり返るかもよ」
「やめてよ、そんなこと誰も望んでない」
「そう? 少なくともお前の体は俺が欲しくて仕方がないんじゃね?」
「最低のセリフなんだけど」
「はいはい、俺がそうなればいいとか、勝手に思ってるだけだよ」
「ひか」
「もう黙れば」
私の声なんて聴きたくないみたいに塞いで、私の正気を奪っていく。そうなればいいと思っているのは、光だけじゃない。
口走ってはいけないから、ただひたすら喉の奥に迫ってきている言葉を飲み込んだ。
「そん、なことしても、光の子だとおもわれな、いよ」
ちかちかと揺れる視界の中呟いて、光が「じゃあ中に出しとく?」と笑った。あまりにも冷たい声で、懲りずに泣きそうになる。
そんな冷たい言葉を吐かれたかったわけじゃない。
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