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「嘘だよ、そんな面倒なことしねぇって」
目が合うと、どこまでも優しい瞳に殺されそうになった。口が悪いのに、肝心なところで優しくしてしまうから、光が女の子にモテていることを知っている。
きっと、これからもずっと、そうやって女の子を誑かすのだろう。私の知らない所で。
現実から目を逸らすように汗ばんだ体を抱きしめて、もう一度名を呼んだ。仲が良すぎて怪しまれるから、これ以上傍にいてはいけない。
目が合って、至近距離で微笑まれた。全てが手遅れだ。
唇を寄せられて、瞼を下ろす。優しく齧られる唇は、どうしようもない現実に震えていた。
「生意気な、おとうと……」
「威厳ない姉ちゃん」
高校卒業と同時に海外留学した弟が日本に帰ってきた。
理由は身内の結婚だ。渋る弟がやっと帰ってきたのを見て、両親は大層喜んだ。一般的な幸せな家庭だ。
母は弟の好物が揚げ出し豆腐だと思い込んでいるから、こいつが帰ってくるたびに実家のメニューは揚げ出し豆腐になる。今回もその手料理を食べるはずだったのに、食べられなくなってしまった。
「考えごと?」
「光、お母さんの料理、食べらんなかったなって」
「うわ、やめろよ、母さんの顔思い浮かべたら萎える」
「やめてもいいよ」
「腰振ってるくせに?」
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