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「――だからさ、普通になるからさぁ、最後に、俺の事好きなふりしてよ」
にっこりとほほ笑んだ。その瞳が、私の本心を知っていることくらい知っている。
高校生の私が踏み込みそうになった一線に気付いて、私が道を踏み外さないようにと実家を出たことくらい知っている。
全部知っている。
私のために、好きでもない人の相手をしていた事も、眠る私に口付けていたことも、今、私を抱きしめる腕がどうしようもなく震えていることも、私は知っている。
だから、もう、引き返せないのだ。
「光、すきだよ。信二さんの次に」
実家のマンションの506号室に明日迎えに来るその人は、永遠にこの日のことを知らなくていい。全ては、忘れられるべきことだ。
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