506

18/19

844人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
「――だからさ、普通になるからさぁ、最後に、俺の事好きなふりしてよ」 にっこりとほほ笑んだ。その瞳が、私の本心を知っていることくらい知っている。 高校生の私が踏み込みそうになった一線に気付いて、私が道を踏み外さないようにと実家を出たことくらい知っている。 全部知っている。 私のために、好きでもない人の相手をしていた事も、眠る私に口付けていたことも、今、私を抱きしめる腕がどうしようもなく震えていることも、私は知っている。 だから、もう、引き返せないのだ。 「光、すきだよ。信二さんの次に」 実家のマンションの506号室に明日迎えに来るその人は、永遠にこの日のことを知らなくていい。全ては、忘れられるべきことだ。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

844人が本棚に入れています
本棚に追加