きみはあくまで

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ほぼ毎日、この場と自宅を往復して、その間に交際を挟んでいる。日替わり弁当のようだと揶揄されようが生活は変わらない。俺の根本が悪夢であり続ける限り。 つい少し前まで張りつめていた集中力がぷつりと途切れた。誰のせいだ、と目の前でパソコンに向き合っている女を一瞥したところで気付かれることもない。 無意識に一つ息を吐きおろして、二十時に差し掛かろうとしている時計に席を立った。 ワイシャツのポケットに入っているそれを確認してから一歩を踏み出して、とくに断るでもなく部屋を後にする。何度か日替わり弁当の彼女に「やめたら?」と言われてきた習慣は治されることもなくもう何年も続けられていた。 別に好きなわけではない。ただ嫌いなわけでもない。 だからこそ継続しているのかもしれない。喫煙者の肩身は毎年狭くなっている。それを考えるとそろそろヘルシー志向にでもなった方が良いのだろうが、今更の話だ。 ポケットの中に入っているライターと煙草を取り出して、煙草の先端に火を移した。 喫煙所には俺一人しかいない。この時間にはほとんどの社員が帰宅しているという至極ホワイトな会社だから、当たり前と言えば当たり前だった。そんな中、俺が残業している理由なんて、そう多くはない。 煙を吐き出して、緊張状態にあった体が弛緩していくような錯覚を覚える。この瞬間に全てから解放されたような気になる。 そんなわけもないのだろうが。
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