きみはあくまで

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絶賛残業中の俺に直属の部下が悪態をつく種になった携帯を取り出して、来ていた連絡を確認する。見当はついていた。 ディスプレイにはよく知った男の名前が表示されていた。瀬野信二。俺が知る中で、もっとも真面目で、もっとも優しすぎる男だ。留守電に入った伝言を再生するために耳元に携帯を近づけて、もう一度紫煙を吐いた。 『ひーちゃん、まだ帰ってこないのー?』 呂律の回らない言葉が無遠慮なヴォリュームで流れてくる。それに眉を顰めながら、煙草の灰を落とした。 ガキがすきじゃない人間でも良く知った人間の娘となると、途端に可愛く思える物なのだろうか。俺にはよくわからない。優男から、もう一つ、メッセージが入っていることを確認して、躊躇うことなく開く。その先に、今日会いに行くはずだった女が満面の笑みで映り込んでいる。 伊央(いお)の誕生日である今日、信二の家庭ではホームパーティーが行われていた。こんな電話が送られてきている俺も、もちろん参加要請が出ていた。 伊央に懐かれているらしい俺は、特別執拗に連絡が来る。それが嫌なわけではないが、俺を交えずに、嫁と三人でやればいいだろうと思ってしまうのは普通の思考だろう。 伊央が俺と結婚すると言い出したのは、会話ができるようになってからすぐだった。それを見た信二は、いつまでも可笑しそうに笑っていた。
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