きみはあくまで

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呑気なやつだ。俺に盗られる心配すらしていないらしい。俺が本当に見境のない男だったらどうするつもりなのだろう。まさか、娘くらいくれてやってもいいと思っているのだろうか。 ディスプレイには、相変わらず伊央がいた。こちらにピースサインを向けている伊央は、同じくよく似た顔で笑う母に抱かれている。伊央が信二ではなく、信二の嫁に似てよかったと心の底から思う。 むしろ清々しいくらいに信二には似ていないから、よく「本当に俺の娘なのかと思うくらいに可愛くて、戸惑う」と笑っていた。俺はその言葉を聞くたびに同じように小さく笑った。 伊央は今、何でも母の真似をしたがる時期らしい。その仕草がたまに嫁に似すぎていて、びっくりする、と少し前にメッセージが送られてきていた。そんなことを俺が知ったことか、と思うのだが、あの腑抜けた面を思うとそういえない自分がいる。 信二にはそういうキャラクター性があった。 渡り鳥の様に次を探すような恋愛とは違う。 真の愛とかいうものを手に入れたらしい男の顔面はだらしなく緩んでいる。その顔が、ピースサインの伊央と、その後ろにいる嫁の横にあるテレビに反射しているのが見えて、思わず笑った。本当に幸せそうな顔だ。
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