きみはあくまで

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「光、おかえり」 「ああ、って、ここ俺の家じゃねえだろ」 「ふふ、同じような物でしょ」 緩く笑って、俺の絶望を唆した。伊央と同じように俺を笑っている。美里に良く似た。本当に、あの男には全く似なかった。その事実が呪いの様に俺の思考を歪ませている。 『ひーちゃんは、いおのー』 「伊央ー、あんまり光くんを困らせちゃだめだぞー」 「信二さん、俺、大丈夫っすよ」 ケラケラと笑って、「はやく結婚したいな?」と伊央の髪をもう一度撫でつけた。俺の手が触れてくすぐったい様な顔をする伊央は、幼いころの美里に瓜二つだ。 ぼけて擦り切れそうな記憶の中にいる美里とよくダブって、眩暈がしそうになる。 子ども特有の甘い香りにつられるように伊央を抱いて、慣れたような足でリビングへと向かった。地獄のような幸せに直面する。リビングの生活感はいつだって俺の精神を最低にした。 まるで、ここで美里が、俺以外と男と生活しているようだった。 傍らには晴れ着姿の信二サンと美里を囲む両家の写真がある。その端に申し訳程度に映り込んでいる自分の死んだ目と、視線がぶつかるたびに現実を思い知る。美里は俺の手を取ってはくれなかった。 いや、俺のために、取らなかった。
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