きみはあくまで

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俺にとって、世界は姉貴だった。それ以外でも以下でも以上でもない。ただその人だった。それが異常だと気づいたとき、すでに俺と姉貴の苗字は一緒だった。 至極シンプルな禁則事項だった。 姉弟は婚姻できない。それはつまり、俺の感情が世間一般からすると狂っていることを指し示している。 「伊央ー、お誕生日おめでとう!」 派手なケーキに笑顔の伊央が眩しい。そろそろ煙草を理由にこの幸福から遠ざかりたい。信二サンは終始笑顔で、姉貴も同じようにしている。 俺の記憶の中でいつまでも絡まっているような、切迫した顔なんて、ここには一つもなかった。まるで、あの日のことはなかったことのようだ。 息を吸い込む時間さえも惜しかった。 ただしがみつくように求めて、応えた。人の道に背くような罪を犯して、永遠に消えない記憶を焼き付けた。姉貴は忘れると言った。忘れてほしいとも言った。もう一生しないことをしようと言った。 全部、不本意だった。だが、それを知るのは俺だけでいい。 伊央に用意していたプレゼントを渡して、開封を待つことなく席を立った。そろそろ退席しても良いだろう。「俺、そろそろ」と声をかけると、伊央は恨めしそうに俺を見た。 伊央は今年三歳になった。姉貴と信二サンが婚約した日から、丁度トツキトオカごろに生まれた長女は本当によく大切にされている。
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