きみはあくまで

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おかえりと言うくせに、俺がここを出るとき、美里は必ずと言っていいほどに「気を付けて帰ってね」と笑う。おかえりでもあるくせに、帰る場所ではない。そういう矛盾がおかしい。 小さく笑うといつでも首を傾げられた。 例えば俺とお前が血縁じゃなかったらとか、この世界が近親婚を認めていたらとか、ありもしないIFを考えるほどガキでもなくなった。 「はいはい、もうさっさと家入れよ」 振り返る先に、じっと俺の目を見つめる美里がいた。今も昔も変わらない、永遠に変わらないのは、いつまでも満ち足りることがないからなのかもしれない。 「ひーちゃん、またねー」 「おー、またくるな」 何度見ても美里に瓜二つだった。その娘が俺によく懐いているのを見ると苦笑が喉元に燻る。ここ三年の間、何度も肺にため込んでいる言葉が嘔吐するように外に出ようとするのを押しこんで、ひらひらと手を振って見せた。 諦めるのはあいつで、往生際が悪いのは常に俺の方だった。
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