きみはあくまで

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子どもは時に残酷だなんてよく言う。天使のような面を引っ提げて、当たり前に俺の急所を突いた。悪魔のような天使が笑っている。 子どもはキンシンソウカンなんて言葉は知らない。 ちらりと前を確認したら、さっきよりも少し近づいてきている美里がいた。どうやらあいつには聞こえていないらしい。 「俺がパパだったら、伊央と結婚できないんだぞ」 「ええ、それもいやだ……」 「だったら、それ、もう言っちゃだめだからな? パパにもママにも。俺と伊央の秘密にしよう」 「ん、わかった。ひみつ」 にっこりとほほ笑む伊央が、小指を差し出してくる。本当に折れてしまいそうだ。こいつが生きている限り、美里が信二から離れることはないだろう。そう思うと笑える。 諦め方がわからない。 もう何年も分からぬままに生活してきた。あいつの好きな色や好きな匂いや好きな食べ物や、全て知っていて、それ以外に抜け出せない。永遠の呪いを背負って、いまだに呼吸を繰り返している。 「ゆーびきーりげんまん」 小指を重ねて、少し調子の狂ったメロディーを聞いた。こいつの体の至るところにあいつの血が滲んでいる。 だったら伊央でもいいのかもしれない。クソみたいなことを考えて、すぐにかき消した。伊央の髪には、俺がプレゼントした髪飾りが光っている。ついさっき、美里に付けてもらったのだろう。
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