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伊央にこれを買ってやったのも、こいつがリクエストしてきたからだった。美里がよく身につけている髪飾りを真似て、自分も可愛い髪飾りを使いたいのだという。
なんでも真似したい時期だと聞いた、その姿は、美里よりも俺によく似ている。そう思うのは気がふれている証拠なのだろうか。
「伊央ー。光と何をお約束してるの?」
「んー? ママには秘密〜」
「ええ〜、さみしいなぁ」
俺と伊央に追いついた美里が笑った。まるでこの世の悪なんて知らなさそうな、一度犯した罪の名前なんて知りもしないような顔をしていた。
どうかしている。あれは間違いなく両者の同意で、あの時初めて、俺もお前もどうしようもなく途方も無い現実を見つめていたというのに。
全てを忘れたような顔で、俺と契りを交わした伊央の小指に触れた。俺と伊央だけの秘密をそっと奪うように触れる指先に目眩がしそうになる。
恋なんてただの呪いだ。後退も進展もない。標本の中に閉じ込められたもののように、この感情の出口はどこにもない。
全てを傷つける準備なんて、途方もなく気が遠くなる昔にできていた。全てを捨ててでも奪い出すやり方なんて何通りも思いついていた。
そのくせに、俺はどうしても美里の手を引いて逃げ出せなかった。
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