きみはあくまで

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ああ、と返したら、美里はゆっくりと振り返って、きた道を伊央と歩き出した。伊央の歩幅に合わせるように歩く後ろ姿は、なかなか遠ざからない。 今ならその手を取って、美里の人生をめちゃくちゃにできる。 「あー、死にてえ」 笑えるくらいに心臓が痛い。 美里が髪飾りをつけていることなど知りもしなかった。俺の前でそれをつけているところなど、一度も見なかった。 8年前の誕生日、馬鹿の一つ覚えのように働いて、それでも金をかけたと思われないよう、極力シンプルなものを選んだ。何気なく渡して、嬉しそうに笑う美里に死ぬかと思った。これ以上、感情を表現する言葉が思い浮かばない。 ただ好きだと思った。死ぬほど、死んでも死にきれないほど夢中だった。 その想いを打ちあけようと決めて次の日、美里を見つけたとき、あいつの髪には髪飾りなんて見当たらなかった。 それ以来、俺があの髪飾りを見る日は来なかった。あいつはただ一人、俺の前でだけ、その髪飾りを外しているのだと言う。 馬鹿みたいな悪あがきだった。俺の諦めの悪さでさえ、あいつの真似なのかもしれない。そう思ったら、もう戻ることなどできない。 忘れようと言ったくせに、未だにその髪飾りをつけている。ただそれだけのことに何度でも殺される俺の心臓は、間違いなく美里に支配されている。
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