506

5/19

844人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
冗談交じりに言って、エレベーターに縺れ込んだ。 もう、遊びはおしまいだよって合図みたいに指先が絡む。そのまま二本の脚と脚も絡まって、思考がショートした。 舐められる口内が苦い。 煙草の煙なのか、彼の味なのか、考えているうちにまた揺さぶられる。瞼を閉じる隙もないまま勝手にされて、彼がエレベーターの数字を一瞥したのを見た。器用な男だ。 「昂ぶった?」 ベルが鳴って、彼が指示した階にたどり着く。それと同時に私を解放した彼が笑った。苦い味が喉を通る。 まるで劇薬だ。甘いのが苦いのか、わからない脳がサイケデリックを引き起こしていた。 「それなりに……?」 「そりゃ安心した」 ずいぶんと男らしく笑うやつだと思う。 その男らしいというの状態がどういうものなのか、私には正確に答えられないから、口には出さないけれど。 さっき煙草に触れた指先みたいにおぼつかない両脚が震える。それを見た彼は、また笑って私の腰に腕を回した。また、慣れてんなと思う。もう口には出してやらない。 506という数字が赤いネオンの発光に照らし出されている。偶然にもよく知った号数だった。 嘘だ、偶然なんかじゃない。 ちらりと横を見たら、彼は私を見ることもなくその部屋のドアを開けた。 「来る?」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

844人が本棚に入れています
本棚に追加