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冗談交じりに言って、エレベーターに縺れ込んだ。
もう、遊びはおしまいだよって合図みたいに指先が絡む。そのまま二本の脚と脚も絡まって、思考がショートした。
舐められる口内が苦い。
煙草の煙なのか、彼の味なのか、考えているうちにまた揺さぶられる。瞼を閉じる隙もないまま勝手にされて、彼がエレベーターの数字を一瞥したのを見た。器用な男だ。
「昂ぶった?」
ベルが鳴って、彼が指示した階にたどり着く。それと同時に私を解放した彼が笑った。苦い味が喉を通る。
まるで劇薬だ。甘いのが苦いのか、わからない脳がサイケデリックを引き起こしていた。
「それなりに……?」
「そりゃ安心した」
ずいぶんと男らしく笑うやつだと思う。
その男らしいというの状態がどういうものなのか、私には正確に答えられないから、口には出さないけれど。
さっき煙草に触れた指先みたいにおぼつかない両脚が震える。それを見た彼は、また笑って私の腰に腕を回した。また、慣れてんなと思う。もう口には出してやらない。
506という数字が赤いネオンの発光に照らし出されている。偶然にもよく知った号数だった。
嘘だ、偶然なんかじゃない。
ちらりと横を見たら、彼は私を見ることもなくその部屋のドアを開けた。
「来る?」
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