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「人生で一つ、もう一生やらないことをやってみようか」と言われて、煙草を吸った。 覚束ない指先の私に、やつは笑いながら、ライターの火を差し出してくる。「燃えたら吸って」などと宣っていた。 先輩のように、あるいは先生みたいに柔らかい声で囁かれる。その魔法にかかったまま、赤を見るのと同時に息を吸い込んだ。 ジワりと先端が色づく。 濃い赤になって、白い灰が残る。その様を見つめていたら、「灰、落ちるぞ」と横から笑われた。 吸ってみれば案外難しいことではなくて拍子抜けする。ただ舌先と喉の粘膜に煙が張り付く感覚がして、煙い。けれど、それだけだった。 夏の湿度が指先を撫でる。この湿度で火が消えてしまいそうだと思った。やつは私がはじめての煙草を嗜む姿を、同じように煙を吐きながら見ている。 あんたはもう一生やらないこと、してないじゃん。別に、いいけれど。 「味気ないね、たいしたことない」と言った私に、やつは笑って「それなら、もっとやりそうにないことをやろうか」と言う。 「それって何よ」 「ん〜、じゃあ、俺とセックスしてみる?」 ケラケラと笑いながら言われて、私も吐くように笑った。
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