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思えばあなたは初めから、私に恋なんてしていなかったものね。この縁談だって別に、あなたは乗り気じゃなかったもの。たまたま昔から家族同士で縁があって、たまたまなんとなく一緒にいたから、私にはあなたしかいないと思っていたけれど、あなたはいつだって、私なんかに縛られたくなくて、時折ふらりふらりと、遊びに出かけていたものね。
家族からの重圧と、同世代の友への羨望。それに、迫りくる女としての消費期限に怯えて、半ば強引に、脅迫するようにお嫁にもらっていただいたけれど、準備をしている間にも、あなた、ちっとも嬉しそうではなくて。
私は不安でたまらなかったから、毎日電話をして、あなたの愛を確認していたけれど、きっとあの時も、隣に他の女性がいたのでしょう。これ、という決定的なものはないけれど、まぁ、女の勘というやつかしら。
でも、それでも私はしゃいじゃって、家具はどこで揃えましょ、とか、新しいおうちはどこにしましょ、とか、あなたに話していたけれど、きっとそれらすべてが、あなたの負担になっていたのですね。
だってあなた、笑っていたけれど、どんどん疲れていくんですもの。時折何か悩んだ顔をして、ぼんやりと月を眺めたり、煙草を何本も吸ったり、していたもの。
まだ若いあなたは、収入もなく、責任が生じることにも自由を奪われることにも怯え、不安でたまらないという顔をしていました。でも私は、どうにかして安定して、日々のしがらみや女としての劣等感から解放されたくて、何かに急き立てられるようにお嫁にもらっていただきました。一度縁を強く結んでしまえば、きっと安定できるから。そうすればきっと、いくら遊び人のあなたでも、すべての過去を清算して、私だけを愛してくれると。そう、考えていたのでございます。
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