ひとあしおさき

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 夏の暑さが顔を出してきた午前七時。会社に行こうと家のドアを閉めて鍵を掛け、出勤したくないという鬱々とした気分を抱きつつ、アパートの通路に視線を落とした時だ。  ひび割れが目立つ通路に、うっすらと足跡が残っているに気が付いた。見た感じ、いやに大きいように見える。  点々と残る足跡はそのまま、お隣の竹中さんの家に続いているようだった。  どうも靴を履いていなかったらしい。その足跡はどう見ても裸足だ。靴の跡であるなら、指付きの変わった靴であるのだろうが。  いや、そもそも雨も降っていないのに、なぜこんな跡が残っているんだろう。予想外のものに出会い、俺は少しの間足跡を眺めてしまっていた。 「あっ、いかんいかん」  そんなものを見ている暇はない。電車の時間があるのだから。  若干興味が、いや、この場合は疑問が残るのだが、それはひとまず心の奥へ押し込んで、俺はそのまま職場へと向かった。  電車に揺られていても、出社してパソコンに向かっても、頭の隅から足跡のことが離れない。  なぜだろう、と考える間に一日の業務をこなし、特に何事もなく就業を終える。  帰路に着き、古めかしいアパートの側まで近づいた時、俺はようやく気になっている理由に気が付いた。
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