ひとあしおさき

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「あ、そういえば」  独り言が漏れるが、人気のない周囲から白い目で見られることはない。  妙に気になっていた理由。それは足跡そのものよりもお隣さんのことだ。  隣の竹中さんはしばらく見た記憶がない。引っ越したとも聞かないし、家の薄い壁越しに物音を聞いた覚えもない。  でも足跡は竹中さんの家に向かっていたのだから、人が来たのは間違いない。本人だったのか来客だったのかは定かじゃないが。  疑問が尽きないのはそのせいだ。  もし竹中さん本人ならドアの音なりで気付けたはずだ。仮に本人でなくとも足跡が残るのだから、早朝ないし俺が仕事に出る前には足跡の主が来ていたはずだ。  自慢ではないが防音性の乏しい我が家からは外の音が良く聞こえる。それなのに全く音に気付かなかった。  これはどうしたことだろう。いや、余程物音に注意を払っていたのなら、気付かなくてもおかしいことではないのだろうけども。  ただ、自分の家に帰るのにそんな注意を払う必要はない。大手を振って入ればいい。
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