ひとあしおさき

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 まさか、泥棒ということはあるのだろうか。盗む気で近付いたなら、それは当然のように音を消して近付くだろう。  裸足だったのは靴の音を消すためか? そう考えるとなんとなく辻褄は合うような……。  自宅に向かいながら、竹中さんの家の前で立ち止まる。周囲をよく見れば、足跡はまだ残っている。水で濡れて出来たものではないようだ。  別のものだとするなら、泥や土で出来た跡なのだろうか。掠れてしまっていてわかりにくい。  でも水で濡れて出来たものじゃないのなら、昨日今日来たわけではなくなるわけだ。それでもしばらく来客なんてなかったはずだ。  竹中さんを見なくなって……考えてみれば一月近い気がする。単に会っていないというだけだけど、実際竹中さんは家に帰ってきていたのだろうか。  生活音も聞いた覚えはない、と思えばなかったような。  考えすぎであればいいのだが、気にしすぎた代償として不安が押し寄せてくる。もし万が一のことがあったなら。一応、竹中さんの家のチャイムを鳴らしてみることにした。チャイムを押すとピンポン、と機械的な音が聞こえた。  無音の時間が続く。やはり帰っていないようだ。一度家に帰ろうか。  そんなことを思った直後だった。微かに吸着音、裸足で歩くような音が聞こえた。  ぺたり、ぺたり、ぺた、ぺた。ゆっくりと、重い足取りで近付いてくるのが分かる。そしてそれは明らかにドアの向こうから聞こえた。
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