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ずっと、誰かの一番になりたいと思っていた。
でも私の欲しいそれは、いつも私の目の前で私ではない誰かに奪い取られてしまう。
それが怖くて、いつの日か私は言葉を発するのをやめてしまった気がする。
私が唯一言葉を発することができるのは、夜だけ。
「…こんばんは、ミアちゃん。」
「こんばんは、ケント君。」
聞こえてきた少し擦れた声のおかげで私はようやく少し息ができる。
別に何を話すわけでもない。
ただ私は、毎晩彼…ケント君の声へ耳を傾ける。
彼のことはよく知らない。
どこかの大学で学生をしている男の子で、オムレツはしっかり焼いた方が好き。雨の日はちょっと苦手で、洋画の方が好き。
でも、知っているのはそれだけ。
どこに住んでいるのか、どんな顔をしているのか。
そんな当たり前なことを私は何も知らないのだ。
ただ、彼の声を聴くと私は安心する。
彼の声を聴いているとき、私はぐっすり眠ることができる。
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