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 この音を出せる人に、なんちゃってドラマーだった俺が勝てるなんて思えない。  悔しいけど、既に負けだよ。  こんなドラムを叩く人が、まだどこかでかおるさんの心の一端をつかんでいるとしたら、俺には指先すら触れられない。 「じゃ、明日21:00。そうね……大吉ラーメンわかるわよね」 「わかります」 「そこからすぐだから、大吉ラーメン前でね」 「はい。お願いします」 「じゃね、おやすみ、マオ」 「おやすみなさい」  通話はあっさり切れた。  どんな人だろう、長谷川和馬ってドラマーは。  サブスクで見られるケルベロスのアルバムジャケットには、メンバーの写真がない。  検索すりゃ、当然出て来るだろうな、和馬さんの写真は。  名だたるスラッシュメタルドラマーだ。どうせ、厳つい刺青だらけのヤバそうなおっさんとかだろ。もう、そんだけで優男の俺は足元にも及ばない。足元に近付いたら、軽く蹴飛ばされる。  それをこの目で見るのが怖かったんだろうよ、チキンの俺は。まだ検索したことがない。  今更検索する気にもなれない。
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