ブラッククリスマス

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こんな噺を聞いたことはありませんか。 クリスマスには、サンタさんが来ます。 ですが、悪い子はブラックサンタさんが来て氷河に捨てられます。 クリスマス以降にその子を見た人はだれもいませんでした。 これは僕の地域に伝えられている伝承だけれど、正直嘘くさいと僕はおもう。 こんなの大人にとって都合のいい子供にするための脅しだ。 子どもを馬鹿にしている大人たちに対してフンっと鼻で笑う。 またクリスマス、か。 一年でもっとも憂鬱な時期が近づいてきて思わず溜め息が出る。 我が家の一人息子であるルドルフは、どこかひねくれた子供でサンタというのを信じないし年々ごまかすのも難しくなってきている。 さらに困っているのはサンタを信じないのは別にいいが、最近のルドルフはちっともいうことをきかない。 学校もサボって悪友たちと近所の子供たちをいじめている。 無駄遣いも増えた。 いつも月末には追加のお小遣いをくれというらしい。 ダメだといっても聞かない。 妻は、毎回そのやり取りに辟易していると愚痴をこぼす。 どうしたらいいものか、とまた溜め息が漏れた。 すると、プルルルルと黒電話が鳴り始めた。 仕方なく電話に出たが、知らない男が『ブラックサンタになりますか?なりませんか?』といった。 ハスキーボイスが相まってあまりにも不気味だったから思わず電話を切ろうとしたら、男は『あなたのところのルドルフ君は最近やんちゃが過ぎますね』といった。 『なぜ、知っている?』と不気味な男に問いかける。 男はクククと笑いながら、『良い返事を楽しみにしていますね』とだけいった。 いつもは厳格なグルントシューレもクリスマスシーズンはどいつもこいつも浮き足立っている。 僕のクラスも例に漏れず教室にクリスマスツリーを飾り付けていた。 先生がクリスマスツリーを綺麗に飾り付けたら、プレゼントをくれるらしい。 馬鹿馬鹿しい。 そんなもので子どもを騙せると思ってるなんて、先生は馬鹿だ。 そんなことを考えていたが、どうやらそれは僕だけみたいだ。 ほかのヤツらは、目をキラキラ輝かせてツリーをオーナメントで飾り付けている。 クラス一のお調子者のアルベルトがみんなに『競争しようぜ!』とニカッとした笑顔でいったら、もうお祭りムードだ。 僕は、こういう空気が大嫌だ。 すると、一人でぽつんとしている僕を見かねたアルベルトが『なぁ、ルドルフもやろーぜー』とクリスマスのオーナメントを渡そうとしてきた。 もう我慢の限界だ。 僕は手渡されたジンジャークッキーのオーナメントを払い落とした。 クラスが静まり返った。 アルベルトも困った顔をしている。 そんな空気にかまわず『クリスマスなんかに浮かれて馬鹿みてぇ』と吐き捨てた。 だれも僕の言葉を分かってくれなかったからイライラして、ツリーを思いっきり蹴った。 ツリーは勢いよく倒れてせっかくの飾り付けも台無しになっただろう。ざまあみろ。 最悪だった。 よりによって先生が帰ってきて、この状況の説明をする羽目になり僕は一時間ずっと怒られた。 反省の色がない僕をみて先生はあろうことかママに連絡しやがった。 仕事から帰ってきたら、また妻は僕にルドルフの悪行を溜め息混じりに報告してきた。 しかも、学校でやらかしたらしい。 いままでは近所の悪童と群れてるだけだったから見て見ぬふりをしていた。 それがいけなかったんだ。 夕ご飯前にルドルフをリビングに呼んでなぜこんなことをしたか聞いた。 そうしたら、不貞腐れながら『馬鹿みてぇだと思ったから』といった。 思わず『なんてことをいうんだ!』と大声で怒った。 火に油を注いだらしくルドルフも『うるせえ!クソジジイ!』とキレた。 久しぶりに喧嘩をした。 だが、怒りおさまらずにルドルフは部屋にもどり、夕ご飯は冷めきっていた。 僕はルドルフを甘やかし過ぎていたようだ。 あの男に電話をかけて、ブラックサンタになることにした。 クソ、親父ムカつく! 普段仕事で帰るの遅いくせに父親ズラしやがって。 イライラして枕を殴った。 ママから『はやく寝なさい!』と怒られた。 うるせえ、うるせえ! 何で子どもってだけで親の言うこと聞かなきゃならねぇ!? イライラがおさまらない。 今日は12月24日だとルドルフは忘れていた。 『本当にやるとは思わなかった』 黒いサンタ服を着たハスキーボイスの男が苦笑した。 僕は慣れない黒いサンタ服を着て、ルドルフの部屋の窓をコンコン、と叩いた。 やっぱりルドルフは寝ていない。 お前には罰が必要だな、ルドルフ。 窓から聞こえる音を怪訝そうな顔をして窓を見たら黒いサンタが窓をノックしていた。 僕は訳が分からないまま窓を開けたら、黒いサンタは大きな白い袋をあけて僕を乱暴に入れた。 気付いたら氷河まで連れてこられていた。 僕は寒さと恐怖で震えて『なんで、こんなこと、するの…?』と怯えながら聞いたら。 突然 黒いサンタは笑いだして『大人を馬鹿にするんじゃねぇよ』といった。 僕は泣きながら『もう二度と悪いことしません!』と命乞いしても、サンタは笑いを止めずに僕を氷河の底まで突き落とした。 僕をみた人はだれもいない。 僕を心配する人もいるはずがなかった。 氷河に突き落とされた僕をみて黒いサンタはにやりと笑っていた。 ああ、バカ息子に罰を与えられてすっきりした。 ほんとうに、この国の伝承には助けられる。 ブラックサンタになっていらない子供を氷河に棄てられるなんて、貧しいこの国にはよくある話だ。 さて、寒くなってきたから家に帰るか。 妻もじゃがいも料理とビールで待っているだろう。 久しぶりにふたりだけの日々だ。楽しいクリスマスになりそうだ。
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