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どうして自分の話になると神尾くんはこんなにも適当になるんだろう。もっと自分自身を大事にして欲しかった。
「マホさんのことも、そうやって笑ってうやむやにしたんじゃないの?」
「……なんでマホの話が出てくるんだよ」
空になった器にスプーンを放り込み、神尾くんが私に冷めた視線を向ける。何言ってんだよ、勘弁してくれよ、そう言いたげな顔だった。
「神尾くんはマホさんに正直な気持ちを話したらそれで終わりだったかもしれない。そうだよね、神尾くんの気持ちは中学生の時からずっと変わっていないもんね」
無意識に言葉尻が強くなっていく。終わりを迎えた他人の恋を責めたくないのに、私は自身を制御できなくなっていた。
「気持ちを変えようとしても変わらなかった、それは分かったよ。でも……私はやっぱり神尾くんは酷いと思う。神尾くんはマホさんの気持ちを想像したことはあった?」
「想像してなくても分かるよ。振り向いてくれない誰かを好きになった時の気持ちは俺もよく知ってるから」
「じゃあマホさんの為にも好きな人に気持ちを伝えるべきだよ。それができないなら……マホさんを迎えに行ってあげてよ」
私は声を震わせていて、神尾くんは冷めた目をしていた。
マホさんはこんな自分勝手野郎のために地元を離れ、5年も一途に想い続けていた。
健気な女の子を、こんな残酷に切り捨てちゃいけない……2人の過去を知ってしまった私は、彼女の行動力や想いが少しでも報われる事を願わざるを得なかった。
「これは俺とマホの問題だから、あんまり話したくなかったけど……」
しばらく黙り込んだ後、神尾くんは重くなった口をやっと開いてくれた。
「俺はマホに嘘だけはつかないようにしてた。思いや考えは全部話をしてたんだよ。付き合い始める時も、他に好きな人がいるけどいいのかどうか確かめた。就職で地元に戻るのを決めた時も、マホの人生を背負う自信はないから、ついて来るのはやめた方がいいって話した。それでもいいって言ったのはマホだよ」
神尾くんの話を聞いた後、私は彼を責めてしまった事を少しだけ後悔してしまった。
今日の昼間に染谷さんから聞いた話は真実の内の一部でしかなくて、あれは外野の妄想でしかなかったんだと痛感した。嘘や思わせぶりな発言をしたつもりはない……それが神尾くんの言い分だった。
「俺にこれ以上どうしろって言うの?好きになれなかったマホと結婚すれば、篠永はそれで満足してくれるの?」
「私のことはいいから。そこはマホさんのために選択してよ」
「なんだよ。そんな言い方するなら、マホとのことをとやかく言うなよ。どうするかなんて俺が決めるんだから」
そんなキツイい方をされたらもう何も言い返せなかった。
黙り込んだ私を見て神尾くんは「ごめん、言い過ぎた」と小さく謝ってくれた。それに対し私は首を横に振るしかできなかった。
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