二人の足跡の上に時が降り積もる

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 ユアヌは重い木のドアをそっと押し開けた。  音をたてないように、気持ちよさそうに眠っているカトレアナが目を覚まさないように。  けれど細く開いたドアの隙間からは、凍り付くような冷気が室内に忍び込んで、暖炉の火を揺らした。 「ユアヌ?」 「あーあ、起きちゃったか」 「お出かけするの?」 「うん。狩りに行ってくるよ。今日はいい天気だから、きっと大物が見つかるぞ」 「うふふ。あなたは狩りの名人だものね。でも気を付けて」 「分かってるよ。まだ夜明け前だ。もう少しお休み、カトレアナ」  ユアヌはもう一度ベッドまで戻って、そっとカトレアナの頬に唇を落としてから外へ出た。  外は一面の雪景色。昨日までは見えていた黒い地面も雪に覆われて真っ白だ。  背の高い木々に囲まれて、ユアヌの家だけが暖かい明かりを灯している。  ユアヌはエルフ(森の民)だ。  日の光を浴びた雪のような淡い金髪から、尖った耳が覗く。その耳と若草色の瞳はエルフ特有のものであり、ユアヌの白い肌や精霊のように儚く美しい容姿もまた、いかにもエルフらしかった。  しかし可憐な見た目に反して、エルフは人間よりもはるかに長命で強い。ユアヌも二十歳をわずかばかりすぎたくらいの青年に見えるが、実のところ百歳に近い。歳と共に体内に蓄えられる魔素も増えて、強力な魔法をいくらでも使うことができた。  だからこそ闇の森に住むことができる。  大陸の中央にある大森林は、木々が生い茂り昼なお暗い。森を取り巻くように在る小さな国々からは、畏怖を込めて「闇の森」と呼ばれている。その中心には魔素が湧き出る泉があると言われているが、見たものはいない。森の奥の凝縮された魔素は、普通の人が生きていくには濃厚すぎるから。  魔素は森の外へ向けて、わずかずつ絶え間なく流れ出している。濃い魔素は毒だが、適量ならば役に立つ。魔素は魔法の素であり、今では人々の暮らしに欠くことができないものだ。  人々は魔素を使うために闇の森を囲むように町を作り、やがて町は国になった。そこで人々は森から溢れた恩恵にあずかって暮らしている。  けれど濃すぎる魔素は魔物を生む。闇の森からは大きくて凶暴な魔物が現れた。それは貴重な資源だったが一方人々にとって脅威にもなった。  エルフは闇の森に住んでいた種族で、森の外にいた人間たちとは似て非なる者だ。その寿命は五百歳とも千歳とも言われ、人間よりもずっと強力な魔法を使うことができる。遥か遠い昔には、魔人と恐れられたこともあった。  けれど今ではもう、森に住むエルフはほとんどいない。  人間の国が発展すると、エルフも魔物の脅威が少ない森の外へと移住した。人間と共に生きることを選んだのだ。  ユアヌも元々は、森の外で生まれたエルフの一人だった。  ◇◆◇
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