01「配信者たち」

2/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 高校に進学して、彼はますます配信者としての活動にのめり込むようになった。勉強も、交友関係も、そのすべてを放棄して、配信者として生きることを決め込むほどだった。自分にはインターネットの世界があればいい。自分には、配信者としての一面があればそれでいい。彼は心の底からそう思うようになっていた。けれど、現実というのは、そう簡単に「楽しいことだけで、どうにかなる」ようには出来てはいなかった。  まず彼が最初にぶち当たった壁は、「伸び悩み」というものだった。  いくら「楽しさ」を求めて配信をしていたといっても、さすがに限度がある。誰かが観てくれているからこそ、それは励みになるし、誰かが応援してくれているからこそ、それはモチベーションの維持に繋がる。  中学三年生の終盤にかけて、彼の配信には視聴者数が二桁すら集まらないことが多くなった。  完全に、配信内容の「マンネリ化」が原因である。一年間も同じようなスタイルの配信を続けていれば、さすがにそのような事態は起きて然るべきものだったのだ。初めの頃は、「中学生の配信者」というレッテルのおかげでコツコツとリスナーを集めることができたが、一年間もそれが続けば、リスナーは必ずその現状に飽きてしまう。新鮮さがなくなり、面白味にも欠けてしまうのだ。そうなってしまったリスナーが、次にどうなるかは、考えるまでもない。世の中には、セオよりも面白い配信者なんて山ほどいるのだ。つまらない素人ストリーマーの配信を何十分も見ている暇があれば、誰でも有名ストリーマーの配信を覗きに行くだろう。  結果として、セオは数少ないリスナーのうちの大半を失ってしまうことになった。  次に彼がぶち当たった壁は、「機器の質の低さ」であった。  これは、配信者として致命的な部分にあたることを、セオはトップストリーマーの今になって痛感している。配信機材のレベルの需要度というのは、いわばアイドルのダンスの上手さと同じくらい大切なものなのだ。ダンスがあまりにも稚拙で不器用なアイドルを一体だれが好んで観るのだろうか。そんなことなら、多少顔が良くなくても踊りが上手いアイドルの方へファンたちは靡いてしまうものである。配信者における機材たちは、それと殆ど同じ役割を担っている。パソコンのスペックが高ければ、配信時に遅延が少なくスムーズに視聴ができる。マイクの音質が良ければ、視聴者たちは安心して、配信者の声に耳を傾けることができる。  トーク力や企画力なんてものは、あくまで『顔』でしかないのだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!