01「配信者たち」

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 大晦日配信とはいえど、配信の基本的な部分は、いつもと変わらない。いかにも大晦日を想起させる和風なバックミュージックを流しながら、パソコンのディスプレイには「今年の振り返り」を箇条書きで表示させ、配信画面に動揺のものを表示させていた。セオは、それを見て、話を展開させていく。時には、リスナーのコメントを拾って笑いを取ったり、時には真剣な声で今年の振り返りをしたり。彼の配信をいつまでも見ていられる不思議さには、彼のこの抑揚のある声が大きく作用していた。  そして、年越し。 「あけましておめでと~」  その時までには、しっかりと「今年の振り返り」を終えることができ、ほとんど完璧な大晦日配信を完了することが出来た、と彼は心の中で安堵を覚えた。 「よっしゃ、じゃあ、継続して今年の抱負言っていくよ」  今度は配信画面に「今年の抱負」とだけ書かれた画面を表示させた。  セオの配信機材は、二カ月前にpcを二台を常時稼働させる「2pc」にしたため、その影響は配信上のスムーズな画面移行にも顕著に表れていた。ただ一つ虚を衝かれた出来事は、セオが配信者として名を語るには少々おこがましいほどに機械に弱かったことである。実際、彼が初めてパソコンに触れたのは、彼がまだ小学一年生の頃であったが、しかし、だからといって彼が機械に強いわけではない。タイピングの速度は、並の社会人とでは比にならない程速い彼だが、パソコンの組み立てをしたことがあるかと訊かれれば、彼はタイピングをする指よりも速く首を横に振るだろう。  つい最近まで「メモリー」と「ハードディスク」は同義だと思っていたほどである。  そのため、彼は自分の配信環境を「2pc」にするまでに、まず配信者仲間を作るところから始まった。まずは、自分と同じ程度のリスナー数を抱えている配信者に声をかけていき、最終的には、その人脈からパソコン関連に強い人間を確保する、という流れだったのだ。  そうしてようやく完成した彼の「2pc」体制の配信は、リスナーですらリアルタイムにそれを感じられるほどの快適さを生み出した。音ズレが起こることはなく、配信画面がフリーズするなんてことは、二度と起きなかった。  もちろん「2pc」にするまでに時間を要した上に、その新体制に慣れるまでにかなりの時間を消費した。それでも彼はこうして年を越すまでには、ある程度は新体制の配信環境を使いこなすことができるようになった。新調したマイクもオーディオインターフェイスも、今の彼が日本のトップストリーマーとして恥ずかしくないものを購入した。  したがって、彼は今年も自分にとって飛躍の年であると実感している。今の自分にはトップストリーマーとしての称号があるのだから、下手な事をするわけにはいかないという強固なプライドが、それをより確実なものへと変容させた。  
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