それは雪山であった不思議なお話

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それは雪山であった不思議なお話

 それは子供の頃のこと。  冬休みに山の近くにある、祖父母の家に泊まりに行った際の話。  他の家族も起きてない早朝に目覚めた私は、窓から見えた一面の銀世界に興奮し、勝手に着替えて外に飛び出してしまった。  その地域全体に降り積もったそれは、家の庭先だけでなく、山までも白く覆い尽くしていた。  最初こそ庭先で遊んでいた私だったが『雪が積もった山も見てみたい』という、ふとした興味が湧いたために、一人で雪の降り積もった山へと入ってしまったのだ。  それがどれほど馬鹿で無謀なことか、幼さゆえに考えもせずに……。  やはり雪に覆われた山というのは、それだけで色々なことが新鮮で、私は思わずどんどんと山の奥へと足を踏み入れてしまった。  最初は目に映る光景の新鮮さと、楽しさで無我夢中になっていたものの、気が付くと自分は山の中の知らない場所まで来てしまっていたことにハッとした。  慌てて帰ろうと思ったものの、私が途中でふらふらと色んなものに釣られながら歩いたため、歩いてきた道はメチャクチャで……。  そもそも自分の足跡など、降り積もった新しい雪で消えてしまっており、帰り道などとっくに分からなくなってしまっていた。  それでも最初はどうにか帰ろうと頑張ってみたものの、いくら歩いても変わらない景色に段々不安になってきた私は、途中で座り込んで泣き出してしまった。  そうしてしばらく、ワンワン泣いていた自分だったが、突然不思議なことが起きた。  誰かが私の肩をトントンと優しく叩いたのだ。  思わず私が振り返ると、そこには誰かが立っている代わりに、くっきりとした足跡が残っていた。  子供である自分よりひとまわり以上大きい大人の足跡、それが私の隣から一直線に何処かへと続いている。  足跡も肩を叩かれたことも、ややすれば不気味に感じても仕方の無いことのはずなのに、私はなぜかどちらも不気味だとも怖いとも感じはしなかった。  そしてその足跡をみた私は直感的に『これを辿れば帰ることが出来るのでは?』と感じ、迷わずその足跡を頼りに歩き出した。  すると、私が思ったとおり、どんなに歩き回っても出ることのできなかった雪山からあまりにあっさりと帰ることができたのだ。  祖父母の家に戻ると、勝手に一人で外出したことを咎められたものの、それ以上は特に問題なく過ごし冬休みを終えて田舎を去ることになった。  しかしあの不思議な出来事だけはあまりに印象的で、ずいぶんと時間が経った今でも思い出す。  きっとあれは、山の神様が助けてくれたのだろうと……。
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