After the Earthquake

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 そんな中、アーサーはただ一人、落ち着き払った表情で煙草を咥え、ライターで火を点ける。辺りに白い煙と、少し甘さを含む香りが漂う。アーサーは実に美味そうに煙を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。 「僕も煙草を吸ってもいいですか?」  僕はアーサーに尋ねてみた。 「好きにすればいい」  アーサーは特に感情もない声でそう答える。僕は小さく頷いてから煙草を取り出し、口に咥えて火を点けた。ちらりと後ろを見ると、グレイがあからさまに不快そうな顔をしている。彼はきっと煙草が嫌いなのだろう。いくぶん申し訳なく思わないわけではないけれど、僕だって平静を保つためには、煙草を吸わなくてはならないのだ。これでビールでもあれば言うことはないのだが、まさかこの状態で酒を飲むわけにはいかない。  車は何度も角を曲がりながら、それでも殆ど停車することなく進んでいく。あまりにも方向が変わりすぎて、南に進んでいるのか北に進んでいるのか、あるいは東に進んでいるのか西に進んでいるのかもわからない。僕にわかることは、車が密会場に向かって走っているということだけだ。  時計を見ると、すでに午前二時を回っている。つまり、僕が車に乗り込んで、少なくとも三十分が経過しているということだ。あとどのくらいで密会場に着くのかはわからない。もっとも、そんなことを考えていたところで、どうにもならないことくらい僕にもわかっている。僕は立て続けに煙草を吸いながら、時間が過ぎていくのをじっと待つ。他の四人も、ただ静かに時間が過ぎていくのを待っている。車内は重苦しいくらいの沈黙に包まれていた。  僕が四本目の煙草を吸い終えたその時、アーサーの声が沈黙を破った。 「密会場まではあと五分ほどだ。各自、準備をしておいてくれ」  その言葉に反応して、彼女の隣でケイトが、 「準備っていっても、何もすることなんてないでしょう?」  と言い、両腕を大きく上に上げて欠伸をする。それに合わせるかのように、ケンも退屈そうに欠伸をした。その一方で、グレイはあまりにも緊張が高まりすぎているのか、手や足を小刻みに震わせている。その表情は硬く、まるで死地にでも赴くかのような様子だ。その姿を見ていると、何となく僕の緊張は和らいでいく。
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