After the Earthquake

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 クロエが言った。正直に言うと、僕としては食べられるものなら何でもよかった。彼女が先に選んでくれた方が、僕としては気分が楽だ。だけど、彼女の好意を無にするのも申し訳ないような気がする。僕は少し悩むふりをしてから、適当に二つのパンと、オレンジジュースを手に取った。彼女はそれを見届けてにこりと笑うと、残ったパンとジュースを持って自分のベッドに腰を下ろした。  僕はさっそく包みを開けて、パンにかぶりつく。思えば、総菜パンなんかを食べるのはずいぶん久しぶりだ。隠れ家にいたときは、缶詰とインスタントのご飯か、ビスケットやクラッカーがメインの食事だった。飲み物も基本的にはミネラルウォーターだった。久しぶりに口にする総菜パンは、思いのほかに美味しく感じる。僕はあっという間に二つのパンを平らげ、ジュースを一気に飲み干した。  一方のクロエは、女性らしく、少しずつパンを齧りながら、ゆっくりと咀嚼している。僕はそんなクロエを眺める。というよりも、彼女を眺めることくらいしか、僕にできることはなかった。なにせ、部屋の中にはテレビも何もない。本もなければラジオもない。暇を潰せるようなものは何一つとしてないのだ。まさか、何もない壁をじっと眺めているわけにもいかない。  クロエはそんな僕の視線に気づいたのか、パンを齧るのをやめて、僕の方を見ながら小さく首を傾げる。 「どうかしたの?」  クロエが僕に尋ねてくる。 「別に、何かあるわけじゃないんだ。だけど、この部屋の中には何もないからね。せめて本の一冊くらいあればいいんだけど」 「そうよね。私も起きてから何もすることがなくて、退屈だったからシャワーを浴びることにしたの。さっきは頼みそびれたけど、夕食を持ってきてくれたときに本が欲しいと頼んでみるのもありかもしれないね。きっと本くらいなら差し入れてくれるわよ」 「そうだね。だけど多分、夕食のときに頼んでも、実際に差し入れされるのは明日の朝食のときだろうし、それまでお互いにずいぶん退屈な思いをしなくちゃならないだろうね」 「たしかにそうかもしれないけど、それは仕方がないわよ。それと、しばらくの間でいいから、私の方を見ないようにしてくれると嬉しいな。ずっと見られてると恥ずかしくて食べられないから」 「あ、ごめん。たしかにそうだよね。じゃあ、僕はもうしばらく眠ることにするから、ゆっくり食べるといいよ」
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