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彼女が何を考えてそんなことを言い出したのか、僕には全くわからない。彼女が僕のことを聞いたところで、何も面白いことはないだろう。だけど、考えてみれば彼女は反対派なのだ。僕の情報を少しでも手に入れておくことは、彼女の今後にとって有利に働くかもしれない。そのための情報収集なのだと考えられないこともない。もしそうだとすれば、軽々に自分のことを語るのは危険な気もする。そんなことを考えていると、僕は自然と全身に力が入り、身構えてしまう。そんな僕を見ながら、クロエはフフッと小さく笑った。
「ねえ、もしかして、私が反対派としてアタルさんの情報を収集しようと考えているとでも思ってる?」
クロエは僕の心の中を見透かしたようなことを言う。誤魔化したところで仕方がないので、僕は素直に、
「少しね」
と答えた。すると、クロエは声を上げて可笑しそうに笑った。何がそんなに可笑しいのかわからないが、彼女はしばらくそのまま笑い続けた。そして、一頻り笑い終えた後に、呼吸を整えてから僕に言う。
「ねえ、私はアタルさんに本当に感謝してるの。あんな状態から私を助けてくれたし、こうやって再び反対派のもとに送り届けてくれた。たとえ賛成派であっても、アタルさんは私にとっては特別な存在よ。だから、決してあなたの情報を収集して、私たちの組織に売り渡すようなことはしないわ」
「じゃあ、どうして僕の話なんて聞きたがるの?」
「単純な興味よ。アタルさんって、どういう人間なのかなっていう。だって、命の恩人だもの。その人がどんな人なのかっていう興味くらい、普通に湧いて来るわよ」
「そういうものかな?」
「そういうものよ」
クロエは小さく頷いた。どこまで彼女の言葉を信じていいのか、僕にはわからない。だけど、彼女の顔を見ていると、僕は毒気を抜かれてしまう。もう、面倒くさいことを考えるのはやめにして、思いのままに話してしまおうと思わせられてしまう。
「ねえ、話したくなかったら、無理に話さなくてもいいけど」
クロエは上目遣いで僕の顔を覗き込むような格好で言う。その姿が可愛らしく、僕は完全に心を奪われてしまった。
「僕なんかのつまらない話でよかったら」
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