After the Earthquake

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 僕はそう前置きをしてから、自分のことをクロエに話して聞かせた。福岡県で生まれ育ったこと。父は地元の中規模企業に勤めるサラリーマンで、母は専業主婦だったこと。妹が一人いること。中学生のときにクラスメイトに恋をして、こっぴどくふられたこと。高校受験の当日に電車の切符をなくして、危うく遅刻しそうだったこと。大阪の大学に進学して経済学を学んだこと。とりあえず、思いつくままに、とりとめもない話をした。僕が話している間、クロエはときどき質問を挟みながら、ずっと僕の話を聞いていた。彼女は決して自分の話はしなかった。  ふと気づくと、二時間ほどが経っていた。ずっと喋り続けていたせいで、さすがに喉が渇いた。だけど、部屋の中にはミネラルウォーターのようなものはない。そもそも冷蔵庫すらないのだ。どうするべきか僕は少し悩んだけれど、贅沢も言っていられないので、奥の扉を開けて、洗面所の蛇口から水を出し、それを飲んだ。多少カルキ臭さが気にはなったけれど、決して飲めないというほどではない。喉を潤した僕は、ベッドに戻った。クロエは僕の話の続きを待っているのか、何も言わずに、ただじっと僕の顔を見つめる。  僕が話を再開しようとしたそのとき、部屋の扉がノックされた。いったい誰だろうと僕は少し身構えながら返事をする。すると、扉が解錠されて、アメリーが姿を現した。 「アタル君、ちょっと来てもらえるかしら?」  アメリーは部屋の入口の所に立ったまま、僕にそう言った。 「わかりました」  僕はアメリーの言葉に従って立ち上がる。そして、ゆっくりとアメリーに近づいていくと、突然、クロエが声を上げた。 「あの、アメリーさん。お願いがあるんですが」 「お願い? 何かしら?」  アメリーはクロエの方に視線を向けてそう尋ねる。 「本か何か、時間潰しができるようなものをお借りできませんか。こんなところで何時間も一人きりにされたら気が狂ってしまいそうです」 「そうか。私のものでよければ、後で部下に持って来させるわ。趣味に合うかどうかわからないけどね」 「何でも構いません。ありがとうございます」  クロエはアメリーに向かって頭を下げた。そして、僕はそのままアメリーに連れられて部屋を出た。
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