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僕はクロエに向かって微笑んだ。彼女は何の疑いもなく、安心しきっているように見える。アメリーから口止めされているものの、僕はクロエに本当のことを話すべきかどうか迷った。決してひどい扱いをしないとアメリーは言ったが、本当にひどい扱いをされない保証などどこにもない。アメリーたちが反対派だったとしたら、保証がないのは僕だけで済むかもしれないが、そうでないとしたら、クロエも保証なんてなくなってしまう。そもそも、彼女をここに連れて来たのは、アメリーたちが反対派だと思っていたからだ。その前提が、今となっては完全に失われてしまった。クロエがこのままアメリーたちを反対派だと信じ続けることは、ある意味において大きなリスクになるような気がする。だけど、もしもアメリーから伝えられた話を僕がしたとしたら、クロエはどんな反応を示すだろう。果たして信じてくれるだろうか。
そんなことを考えていると、クロエが読んでいた本を閉じて、傍らに置いた。
「ねえ、アメリーさんとどんな話をしてきたの?」
クロエは好奇心に満ち溢れた顔をして尋ねてくる。
「賛成派について、いろいろと訊かれただけさ」
僕は咄嗟に誤魔化した。それが正しいことなのかどうなのかはわからないけど、考えるよりも前に、口が勝手に動いていた。
「ふうん。それにしては早かったね」
「そうだね。君にも言ったと思うけど、僕は一度、彼女たちに拉致されて、知っていることはそのときに全て話してしまってるからね。だから、そんなに話すことはなかったんだ」
「そうだったね。それで、とりあえず話は終わったの?」
「とりあえずね」
僕が答えると、クロエは再び本を手に取って読み始めた。今の僕にはどうするべきか、答えを出すことができない。だから、僕は眠ることにした。こういうときは眠ってしまうに限る。一度眠って頭をすっきりさせてしまえば、何かいい考えが浮かぶかもしれない。幸いなことに、クロエも暇潰しの道具として本を手に入れている。彼女が手持ち無沙汰にしているようだったら、話に付き合うなりなんなりしなければならないだろうが、この状態だったら僕が眠ってしまっても大丈夫だろう。
「少し眠ってもいいかな?」
僕はクロエに尋ねた。
「構わないよ。おやすみなさい」
クロエは本に視線を落としたままそう言った。
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