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目が覚めたのは午後五時を少し回ったところだった。隣のベッドを見ると、いつの間にかクロエも眠ってしまっている。僕はベッドから抜け出して、浴室で熱いシャワーを浴びた。そして部屋に戻ると、クロエは目を覚まして、再び本を読み始めていた。
「おはよう、起きたんだね」
僕はクロエに声をかけた。
「うん。いつの間にか眠っちゃってたみたい。眠るつもりはなかったんだけど」
「眠れるときに眠っておいた方がいいよ。いつ何が起こるかなんてわからないからね」
「私はここにいる限り大丈夫よ。アタルさんだって、もしも何かあるようなら、私がアメリーさんに言ってあげるから大丈夫」
「ありがとう」
僕はそう礼を言ったけれど、クロエは何かに気づいた様子で、小さく首を傾げた。
「あまり嬉しそうじゃないのね」
「いや、そんなことないよ」
「嘘。何か隠してるでしょう?」
「何も隠してやしないよ」
僕はそう言ったけれど、クロエは明らかに何かを感じ取っている様子で、僕の言葉など信じないという態度だ。眠って起きても、まだ僕の考えは纏まっていない。彼女に真実を告げるべきか、告げないべきか。だけど、少なくとも目の前の彼女を見ている限り、誤魔化しきれそうな雰囲気はない。僕は覚悟を決めて言った。
「ねえ、クロエ。僕と一緒にここから逃げ出さないか?」
僕の言葉に、クロエの動きが停まった。そして、黙ったまま、まじまじと僕の顔を見る。何か言いたげだが、言葉が出てこない。僕は彼女が口を開くのをじっと待った。
「どうして急にそんなことを言い出すの? 私のことが信用できなくなったの?」
クロエは唐突に言葉を吐き出した。
「そういうことじゃない」
「だったらどういうこと? ここにいれば安全なのよ? アタルさんだって、ここを出たら賛成派のメンバーに追われることになる。それなのに、どうして敢えて危険を冒そうとするの?」
「いろいろあるんだ」
「いろいろってどういうこと?」
クロエの視線が厳しくなる。どうやら適当な言葉で誤魔化しきるのは無理だと、僕は悟った。僕は一度ため息を吐いて、それから頭の中を整理した。何をどのように伝えれば彼女に正しく伝わるのか、それを考えた。僕が考えている間、彼女は僕が語り始めるのをじっと待っていた。どんなに考えても僕の思考が纏まることはなかったけれど、僕は見切り発車的に言葉を切り出した。
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