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と、小声で呟いた。彼女が言うそんなことというのが、僕一人で逃げ出すことなのか、それとも、僕が逃げ出したことをアメリーに黙っておくことなのかはわからない。だけど、このままだと一緒に逃げ出すことは難しいだろう。クロエを説得するべきか、それとも、このまま逃げ出すことを諦めるべきか、僕に選択が迫られる。そこで、僕は一つの賭けに出てみることにした。
「君に一つ訊いてみたいことがある」
「何?」
クロエは少し不機嫌そうに、それでいて、何か迷っているような表情を浮かべて、僕の言葉に反応する。
「君は、僕とアメリーのどちらを信用するんだい? 僕はアメリーから口止めされていたんだ。自分たちが反対派であることは君に黙っていて欲しいと。それでもこうして君にすべて正直に話した。それでも君が僕を信用できないというのなら、僕は君を振り切ってでも一人でここから逃げる」
僕は敢えて少し強めの口調で、クロエを睨みつけるようにして言った。僕の態度に何かを感じ取ったのか、クロエは戸惑ったような表情を浮かべて僕の方を見る。だけど、僕はそれ以上、何も言わない。ただ、彼女がどんな解答を導き出すかだけを待つ。
一分か二分か、それくらいの間、僕とクロエの間に沈黙が続いた。しんと静まり返った部屋の中に、僕の心臓の鼓動が響きそうだ。そして、クロエは悩んだ挙句、
「わからない」
と答えた。たしかにそうかもしれない。僕だってなかなか答えを出せなかったのだ。彼女だってそんなに簡単に答えなど出せないだろう。そういう意味では、僕の質問は、彼女にとってずいぶん意地悪なものだったのかもしれない。それでも、僕は彼女にそれを問わざるを得なかったのだ。
「一応、僕の計画を話しておきたい。それを聞いてから判断してもらっても構わない」
僕がそう言うと、クロエは小さく頷いた。
「昼食のとき、僕たちの所に食事を運んできたのは、メイド姿の女性一人だった。女性一人だったら、僕の力でも取り押さえることは十分にできる。危害を加えるつもりはないけれど、少なくとも僕たちが逃げるまでの間、気絶くらいはしておいてもらわなければならない」
クロエはもう一度、小さく頷く。
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