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僕がそう語り終えると、クロエはようやく首を縦に振った。
「正直言って、まだ信じられないところもあるけど、アタルさんは私の命の恩人だし、信じてみることにする」
「ありがとう」
僕がそう言うと、クロエはにこりと笑顔を浮かべて見せた。
午後六時少し前から、僕とクロエは耳を澄まして、給仕係の女性がやって来るのを待った。やがて、午後六時を過ぎた頃、廊下を歩くカツカツという音が僕たちの耳に届いてきた。いよいよそのときがやってきた。僕とクロエは、互いに目で合図する。そして、クロエは扉の死角になる部分に移動する。僕は一度大きく深呼吸して気持ちを落ち着ける。そして、ついに部屋の扉がノックされた。
「はい」
僕が返事をすると、扉が解錠される音が響き、給仕係の女性が姿を現した。僕は女性の方に近づく。そして、距離が二メートルくらいになったところで、クロエはゆっくりと扉を閉めた。そして彼女は扉の前に立ち、女性の逃げ道を塞ぐ。それに気づいた女性が僕に背を向けて扉の方を向く。その瞬間を僕は見逃さなかった。僕は女性を背後から捕まえ、首に手を回す。女性は慌てて藻掻くが、僕は拳をぐっと女性の頸動脈の辺りに当てる。グッ、グッという女性の呻き声が聞こえてくるが、僕は力を緩めない。やがて、女性の身体から力が抜け、だらりと腕が垂れ下がる。高校生の頃に柔道の授業で習った締め技がこんなところで役に立つなんて思ってもいなかった。
僕は女性の身体を床に横たえる。それを確認したクロエがすぐに寄ってきて、女性の身体を探り、鍵の束を見つけ出す。
「よし、行こう」
僕が言うと、クロエが力強く頷く。そして、僕とクロエは部屋を出て廊下を走る。幸いにも廊下に見張りらしき人間はいない。僕は一刻も早くここから抜け出したいと心が逸る。鉄格子まで辿り着いた僕は、クロエから鍵を受け取って解錠する。そして、続いて鉄の扉を解錠する。そして、僕はドアノブに手をかけて、一度クロエの方を見る。クロエは、覚悟はできているとでもいうかのように、力強く頷いた。そして、僕はドアノブを握る手に力を入れて、扉を開けた。この扉を抜けたら、後は左に曲がって真っ直ぐ走るだけだ。飛び出した瞬間に走り出せばいい。
だけど、次の瞬間、僕の身体は凍り付いた。後ろにいるクロエは走り出そうとしていたのか、僕の背中に思いきりぶつかる。
「どうしたのよ?」
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