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「あ、いや、別に」
僕は一度ケイトの方に視線を向けて、それから視線を舞台の方に戻した。だけど、ケンは待ってましたとばかりに、ケイトの方を向いて話し始める。そんな彼と彼女の会話が、僕の耳にも届いてくる。
「いやあ、ケイトさんが美人だって話をしてたんっすよ」
「へえ、そうなんだ。でも、なんだか、それだけじゃなかったような気もするけど」
「あ、聞こえてたんっすか? 実はアタルさんが、ケイトさんが美人だから一発やりたいっていうもんだから」
ケンが言った瞬間、僕は視線を二人の方に戻し、
「誰がそんなことを言った」
と、ケンを睨みつけた。そんな僕を見て、ケンはヘヘッと小さく笑う。
「冗談っすよ、アタルさん。ケイトさんだって、本気にしてないですよね?」
ケンが尋ねると、
「まあね」
と、ケイトは微笑みを浮かべる。その微笑みが、いやに妖艶で、僕は心を鷲掴みにされるような感覚に陥った。そんな僕を一度ちらりと見てから、ケンの方に視線を向けてケイトが口を開く。
「ケン、私と一発やりたいって言ってたのはあなたでしょ?」
「あ、バレてたっすか?」
ケンは悪びれる様子もなく、笑顔で応答する。
「そうねえ、やりたいんならやらせてあげるわよ? 一発くらい」
「え? 本当っすか?」
「もちろん、ただってわけにはいかないけどね。店での料金よりは割安にしとくから」
「店ってどういうことっすか?」
「あ、私、もともと福原のソープランドで働いてたのよ。だから、男とセックスするのなんて何とも思わないの」
ケイトはそう言うと、フフッと意味ありげに笑う。
「ちなみにいくらくらいならオーケーっすか?」
「そうねえ、これくらいでどうかしら?」
ケイトは右手の人差し指、中指、薬指を立てて、ケンに見せる。その瞬間、ケンが、カーッと喉の奥から声にならない声を上げた。
「高い、高いっすよ。ニートの僕には一本でもきついっす」
「あら、あなた、ニートなの?」
「そうっす。いまだに親のスネを齧りながら生きてるっす」
ケンはふざけ半分に胸を張って答えた。そんなケンを見て、ケイトはクスリと笑う。見る限り、完全にケンが弄ばれている。
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