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とはいえ、ニートに元ソープ嬢がどのような経緯でこの賛成派に参加することになったのか。それに、アーサーやグレイにも日常の生活があるはずだ。アーサーやグレイが普段どのような生活をしているのか僕にはわからないが、少なくとも、ニートのケンと元ソープ嬢のケイトと普通の会社員の僕という取り合わせからは、本格的な戦闘など想像することもできない。本当にこんなチームで大丈夫なのだろうかと、僕は一抹の不安を覚える。
そのときだった。
「静かに」
と、アーサーが僕たちの会話を遮った。僕たちは顔を見合わせて口を噤む。それに合わせるかのように、会場中に静けさが広がってゆく。時刻は午後三時を回っている。いよいよ何かが始まるらしいということは、僕にもすぐにわかった。
大勢の人間が集まっているにも関わらず、会場の中は耳が痛くなりそうなほど静まり返っている。そして、全ての視線が会場中央の舞台に注がれる。そんな舞台に、一人の男が現れた。遠目なのではっきりとは見えないが、スラリとした長身の男だ。ロマンスグレーの髪をオールバックにして、黒のシャツに黒のスーツ、黒のネクタイを締めている。年の頃は五十代半ばといったところだろうか。
男が舞台中央に立つと、会場中の人間が一斉に立ち上がった。僕も遅れずに立ち上がる。
「ジェネラル・キンバリーに敬礼」
スピーカーを通して、女性の声が会場中に響き渡る。すると、ザッという短い音とともに、会場中の人間がキンバリーに向かって敬礼した。キンバリーも敬礼の姿勢を取ったまま、会場の中を三六〇度見回す。そして彼は、ひと通り見回し終えると、ゆっくりと手を下ろした。
「同志たちよ」
キンバリーの少し掠れた低い声が、スピーカーを通して会場に響く。
「昨夜、反対派によって大阪駅が爆破されたことはもう知っていると思う。いよいよ反対派が本格的に攻撃を仕掛けてきたということだ。当然のことだが、我々としても、この由々しき事態を黙って見ているわけにはいかない。いよいよ、同志たちの力を借りる日がやって来た。我々は、反対派に対して反撃に出ることとする」
そこでキンバリーは一呼吸置いて、会場の中を見回す。すると、どこからともなく湧き起った拍手が、少しずつ広がっていき、会場中を埋め尽くしていく。僕たちのチームも五人そろって、盛大な拍手を送る。
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