After the Earthquake

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「それじゃあ、これで失礼します」  僕は立ち上がり、係長にも聞こえるようにそう言った。係長は慌てて僕を止めようとしたけれど、僕はそれを無視して事務室を出た。  会社から出ると、僕は妙に清々しい気分になった。もう、これでこの会社に来ることもなくなる。僕は最後に、会社の建物に向かって、深々と頭を下げた。  家に戻った僕は、当面の生活で必要になりそうなものを、次から次へとカバンに詰め込んだ。もちろん、あまり大荷物になると目立ちすぎてしまうので、必要最低限のものに絞った。それでも、あっという間にカバンはパンパンになってしまう。他にもまだ持っていきたいものはあるけれど、とりあえずは諦めておくことにした。もしも本当に何かが必要になれば、また取りに帰ってくればいい。  リビングの壁掛け時計が正午を知らせる。リビングのソファに腰を下ろしてテレビを点けてみると、ちょうどニュースが始まったところだった。トップニュースはやはり大阪駅爆破事件。鎮火はしたものの、結局、三五二人の死者と三千人を超える負傷者を出した。当然のことながら、大阪環状線、神戸線、京都線など、大阪駅を通過する路線は全て運休となっている。おかげで、大阪近辺の交通網はひどく混乱しているようだ。警察が捜査にのりだしているらしいが、反対派の仕業である以上、犯人を特定することなんてできないだろう。反対派だって、そんなに簡単にボロを出すような組織ではない。なにより、大地震以降の混乱で、警察の捜査能力自体が落ちてしまっている。おそらく型通りの捜査をして、犯人が特定できないという結論を出すだけだろう。そもそも、そうした警察の捜査能力の低下が、賛成派と反対派の組織拡大を加速させたのだから。  僕は熱いインスタントコーヒーを淹れて、少しだけ啜った。準備ができたとはいえ、家を出るにはまだ早すぎる。とはいえ、何かすべきことがあるわけでもない。何もすることがないとなると、時間が過ぎていくのがひどく遅く感じられる。とりあえず暇つぶしに何かをしてみようと思うけれど、何かをしようと思えば思うほど、何をすればいいのかわからなくなる。いっそ、早めに家を出て、指示時刻よりも前に隠れ家に行ってしまおうかとも思った。だけど、そんなことをして反対派に嗅ぎつけられでもしたら、僕には言い訳のしようもない。
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