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After the Earthquake
大阪駅爆破のニュースが飛び込んできたのは、午後八時のことだった。テレビ画面は、真っ赤に燃え盛る大阪駅と、逃げ惑う人々の姿と悲鳴で埋め尽くされる。ちょうど会社から帰宅して、一息つこうとビールに口を付けたばかりの僕の視線は、テレビ画面に釘付けになった。テレビ画面に映し出される光景は、まさに地獄絵図そのものだ。
まだ僕にも状況はよく飲み込めていない。そもそも、これが単なる火災ではなくて、爆破されたものなのだとわかるのも、テレビ画面のテロップにそう表示されているからだ。だけど、それ以上の情報は入ってこない。テレビ局内もかなり混乱しているのか、女性アナウンサーは次から次へと渡される原稿を、つかえながら繰り返し読み上げている。だから、誰がどんな目的で大阪駅爆破などという暴挙に出たのかもわからない。
おそらく、僕の所属する組織か、あるいは、それに敵対する組織の仕業だろうということは想像がつく。でも、それはあくまでも僕の想像によるものであって、確定的なものではない。あるいは、蓋を開けてみると、全く知らない第三者によるものだったという可能性がないわけではない。
僕はビールをチビリチビリと舐めながら、テレビ画面の中の動向を注視する。
その時だった。僕の携帯電話が鳴り始める。普段使いの携帯電話とは違う特殊な携帯電話。僕は急いで携帯電話を取り出し、電話に応答した。
「アタルか?」
「ええ、チーフ・アーサー」
僕は答えた。アタルというのは、僕のコードネームだ。僕たちの組織『賛成派』では、互いをコードネームで呼び合う。もちろん、アーサーというのも彼のコードネームだ。僕は彼の本名を知らないし、彼も僕の本名は知らない。僕たちはみんな、互いに互いの本名を知らない。なんならば、素顔だって知らない。メンバーの本名や素顔を知っているのは、組織の中核となるほんの一握りの人間だけだ。だけど、目指す目標が同じならば、互いの本名や素顔など知っていなくてもやっていける。
「君にはもう、大阪駅爆破の情報は届いているか?」
「ええ。今、テレビで見ていますよ。ずいぶん大変な騒ぎになってますね」
「あれは反対派による仕業だ。確かな筋からの話だし、間違いないだろう。奴ら、ついに実力行使に打って出てきたというわけだ」
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