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バスは途中で乗客を乗せることも降ろすこともなく、定刻通りに地下鉄の駅についた。僕は事前に準備しておいた運賃を料金箱に入れて、バスを降りた。それからゆっくりと階段を降り、地下鉄の駅に向かう。バスと違って、さすがに地下鉄の駅は多くの人で溢れている。学生の姿もあれば、スーツ姿の会社員の姿もある。僕はできるだけ目立たないように、足早に改札を潜り抜け、ちょうどやって来た地下鉄に飛び乗った。
途中で地下鉄を乗り換え、ポイントM一二の最寄り駅に着いたのは、午後四時半より少し前だった。ここから約二キロメートル歩くことを考えれば、予定時刻どおりに隠れ家に到着することができるだろう。僕は駅を出ると、まずM一二を目指した。M一二は駅からほど近いところにある小さな公園だ。駅から歩いて五分とかからない。僕は大通りから路地に入り、M一二を確認すると、立ち止まることなくそのまま隠れ家を目指した。
僕たちの隠れ家、廃工場は突然目の前に現れた。灰色の壁で覆われたその工場は、ずいぶん前から放置されているらしく、壁や屋根の至るところに穴が空いている。入口のシャッターもずいぶん錆びついていて、動かすのにはずいぶん力がいりそうだ。もともと、何らかの看板が掲げてあった形跡はあるが、今は何の看板もかかっていない。老朽化も甚だしい廃工場は、それこそ大地震にでも襲われたらひとたまりもないだろう。賛成派の一員として活躍する前に、こんな廃工場の下敷きになって死ぬのなんてごめんだ。とはいえ、とりあえずは中に入ってみなければ何も始まらない。
僕は辺りを見回して、人の姿がないことを確認してから、少しだけ開いたシャッターの隙間から工場の中に滑り込んだ。それから立ち上がり、服に着いた砂を払って工場内を見回すと、薄暗い空間の中に人影が見える。それが誰なのか、はっきりとは確認できない。僕はゆっくりと人影の方に向かって歩いていく。すると、その人影の方から声が聞こえてきた。
「コードは?」
それはアーサーの声だった。
「N二四〇三」
そう答えると、アーサーは手にしていた懐中電灯に明かりを灯し、僕の方に向かって二度振った。僕はゆっくりとアーサーの方に向かって歩いていく。そして、ようやく互いの顔が確認できるところまで近づくと、アーサーが言った。
「我々の隠れ家はこの地下だ」
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