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アーサーは床を指さした。アーサーが指さした先には、丸いマンホールの蓋のようなものがある。アーサーは屈みこむと、ゆっくりと慎重にその蓋を開けた。その蓋は僕が想像していたよりもずっと分厚く、重そうに見える。そして蓋を開けたそこには、丸い穴がぽっかりと口を開ける。その穴の壁に梯子が取り付けられているのが見えた。そして、アーサーは迷うことなくその穴の中に入ると、一段一段しっかりと確かめるように梯子を下りていく。僕もそれに続いて穴の中に入り蓋を閉めた。すると、あっという間に目の前が真っ暗になり、僕は身動きが取れなくなる。それでも、アーサーが梯子を下りていく音は、下の方から確実に聞こえてくる。どうやらこの真っ暗闇の中で梯子を下りていかなければならないらしいということを察した僕は、感覚を研ぎ澄まし、手と足でしっかりと梯子を確認しながら、一段一段ゆっくりと下りて行った。
穴がどこまで続いているのか僕にはわからない。体感的には、三十メートルほどは下りているのではないかという気分になっているが、いまだに足が地面につかない。穴の底が見えないからこそ、それほどの恐怖を感じることなく進むことができるが、もしも穴の底が見えていたら、手足が硬直して動けなくなってしまうかもしれない。そんなことを思いながらゆっくりと下りていくと、ようやくアーサーが懐中電灯を点けてくれた。やっと視界を得ることができた僕は、いったん動きを止めて、自分の位置を確認する。あと三段下りれば、僕の足は地面に着く。とりあえず下りてしまおうと、僕は残りの三段を急いで下りて、地面に足を着けた。
「アタル、大丈夫か?」
アーサーが僕を気遣って声をかけてくれる。
「ええ、大丈夫です。でも、ずいぶん深いようですが、僕たちは何メートルくらい下りてきたんですか?」
「だいたい十メートルくらいだ。この隠れ家は核シェルターにもなっている。まあ、反対派が核を持っているということはないんだが、万が一の備えとしてな」
十メートルというアーサーの言葉に、僕は驚きを隠せなかったが、実際に懐中電灯で照らしてみると、確かに十メートルほどの深さしかない。それにしても、隠れ家が核シェルターにまでなっているとは、物凄い念の入れようだ。これから一体どんな戦いを想定しているというのだろうか。いくら覚悟はできているとはいえ、想像すると恐怖で思わず身震いしてしまう。
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