After the Earthquake

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「誰もいない建物を爆破したところで、決して行政機能を失わせることはできない。人が残っていれば、仮庁舎でも作ってとっとと仕事を再開するだろうからな。反対派に大きな打撃を与えるためには、人のいる状態で愛知県庁と名古屋市役所を爆破する必要があった。そういうことだ」 「だけど、それだと反対派と同じじゃないか。そもそも、愛知県庁や名古屋市役所に勤務している公務員が反対派に所属してるっていうわけでもない。どうして敵でもない人間を犠牲にしなくちゃならないんだ」  僕は心の奥底からふつふつと湧いてくる憤りを、そのままアーサーにぶつける。だけど、アーサーは表情一つ変えずに、落ち着いた、それでいて感情のない口調で言った。 「目的達成のためには、敵だろうがそうでなかろうが、ある程度の犠牲は覚悟しなければならない。アタル、綺麗ごとだけじゃ何も前に進まないんだ。それに、私たちも反対派も、目指す目標が違うだけで、その実態はそう変わりはしない。そのことはちゃんと頭に叩き込んでおくんだな」  アーサーはそれだけ言うと、棚からミネラルウォーターのペットボトルを一つ取り、キャップをとって、一気に半分くらい飲んだ。僕は釈然としない思いを抱きながら、そんなアーサーを見つめる。だけど、冷静に考えてみると、悔しいが、アーサーの言うことは何一つとして間違っていないのかもしれない。おそらく、綺麗ごとだけじゃ何一つとして僕たちの目的は達成されないし、ある程度の犠牲だってやむを得ないのかもしれない。  僕は高ぶった気持ちを抑えるために、アーサーと同じように棚からミネラルウォーターのペットボトルを一つ取り、キャップをとってから、一気に飲み干した。水を飲んだだけで僕の中に湧き起こった蟠りが綺麗さっぱりなくなるわけではないが、それでもそうすることによって、僕の気持ちはいくぶん落ち着いた。  僕がケンの隣にゆっくりと腰を下ろすと、アーサーは僕たち全員の前に立ち、一度小さく咳払いしてから口を開いた。
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