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気づけば、時刻は午後八時を回っている。ケンとケイトは、相変わらず床に腰を下ろして、愛知県庁と名古屋市役所の爆破に関するニュースに見入っている。二人が何を思いながらそのニュースを見ているのかはわからない。あるいは、自分も同じような活躍をしたいと思っているのかもしれない。だけど、正直に言うと、僕は反対派と無関係な人間を巻き添えにするようなことはしたくない。可能ならば、反対派の人間だって殺すようなことはしたくない。だけど、そんなふうに考えるのは、僕が甘い証拠なのだろう。こんなことを口にすると、またアーサーに綺麗ごとだけでは何も前に進まないと指摘されるだけだろう。
あまりに急激な環境の変化のせいか、僕はひどく疲れている。さっきからひどい眠気が襲ってきていて、気を抜けばすぐに眠ってしまいそうだ。とりあえず、僕はいつ眠ってしまってもいいように、寝袋の中に潜り込んだ。初めて使う寝袋には何となく違和感がある。手足が自由に動かせないせいか、ひどく圧迫感がある。だけど、温かさは十分だし、アーサーが言うように、慣れてくれば心地が良いのかもしれない。
寝袋に入ってしばらくすると、誰かが僕のそばに寄ってくる気配を感じた。目を瞑っていた僕が静かに目を開けると、目の前にグレイが座っていた。何事だろうと思いながらグレイを見ていると、彼の方から僕に声をかけてきた。
「ちょっと、いいかな?」
「何ですか?」
僕はそう尋ねながら、寝袋のファスナーを下ろし、中から抜け出す。そして、一度大きく伸びをしながら欠伸をし、グレイと向かい合うように座った。
「アタル、君はこれまでどんな仕事をしていたんだい? 無職ってわけじゃなかったんだろう?」
「ええ。食品会社で営業として働いていました。もちろん、今日、会社には辞表を出してきましたが」
「ふうん。この状況で生き残っている会社なんだから、それなりに大きな会社だったんだろう?」
「そうですね。決して小さな会社ではありませんでしたよ」
「だったら、給料もそれなりに貰えていただろうに。どうして賛成派に参加しようなんて思ったんだい? 普通に会社勤めをしていたら、それなりに平和に幸せに暮らせていただろうに」
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