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グレイの言葉に、僕はどう答えるべきか悩む。もちろん、僕にだって賛成派に参加しようと思った直接的な理由がある。だけど、それを明かすべきか否か、その判断が僕にはつかない。仲間なのだから、互いをよく知るという意味では、きちんと話すべきなのかもしれない。それに、僕が理由を話したところで、いきなり賛成派から追放されるということもないだろう。だけど、賛成派に参加するときにもそんなことは誰からも訊かれなかったし、もしかすると黙っておいた方がいいのかもしれない。
僕は少し考えてから、
「グレイさんはどういう理由で賛成派に参加したんですか?」
と尋ねてみた。すると、グレイは一度小さく頷いてから語り始めた。
「父が死んだんだ。自殺だった。ある朝、家の寝室で首を吊っているのを、母が見つけた。あまりにも唐突なことだったし、僕も母もひどく混乱したのを今でも覚えてる」
「お父さんはどうして自殺なんて?」
「父は小さいながらも会社を経営していたんだ。バブル崩壊やら、リーマンショックやら、何度も倒産の危機に晒されながらも、父は何とかそれを乗り越えて、会社の経営を続けていたんだ。僕としても母としても、それほどまでに無理をして会社を続けなくてもいいんじゃないかと思っていた。だけど、父はそうは思っていなかったみたいだ。父は社員を自分の家族のように大切にしていた。自分が会社を潰してしまえば、社員とその家族を路頭に迷わせることになってしまう。だからこそ、どんなに大変な目にあっても、父は会社の経営を継続していたんだ」
「きっと、素敵な経営者だったんですね」
僕はグレイにそう伝えた。だけど、それが聞こえているのかいないのか、グレイは特にその言葉に反応することはなく、そのまま話を続ける。
「だけどね、あの大地震の後、全ては変わってしまった。君も知っているとおり、地震の影響で日本中が混乱した。もちろんその混乱は今でも続いているけどね。首都東京の没落に飲み込まれて、地方の小企業は倒産するよりほかに道はなかった。父はそれでも必死に歯を食いしばって頑張っていたんだが、一人の人間ができることなんてたかが知れている。結局、父の会社も倒産したんだ。父が大切にしていた社員は路頭に迷い、家族ぐるみで姿を消した者もいたし、公園で野宿生活を送る者もいた。そんな社員を見て、父は耐えられなかったんだろう」
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