After the Earthquake

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 政財界の強力なリーダーと行政機能を失った首都圏は、もはや無法地帯と化していた。窃盗、暴行、強姦などの犯罪は日常茶飯事となっていた。もはや、そこに希望も明るい未来も存在しない。人々は、やがて首都圏を離れ、地方へと散っていった。そんな中で、賛成派も反対派もゆっくりと表舞台から姿を消し、地下へと潜っていった。そして、互いに巨大な地下組織を形成し、今でも各地で小競り合いを起こしている。  もっとも、これまでは本当に小競り合いという程度の争いしか起こってこなかった。少なくとも賛成派の中では、ずいぶん前から実力行使の機運は高まっていた。だけど、それを思い止まってきたのは、実力行使による現代版の独立戦争をできる限り回避したいという考えがあったからだ。しかし、反対派の方から実力行使をしてきたとなれば話は別だ。狼煙はもう上げられたのだ。後は徹底的に戦って、独立を勝ち取るまでだ。  再び電話が鳴ったのは、ちょうど日付が変わった頃だった。電話に出ると、アーサーは落ち着いた口調で言った。 「アタル、コード二三七だ。〇一三〇、ポイントT一六だ」  僕は頭の中に時間と場所を刻み込む。 「了解。〇一三〇、ポイントT一六」  僕が復唱すると、アーサーは何も言わずに電話を切った。僕は携帯電話をポケットにしまい、カバンを持って家を出た。  ガレージに置いてある愛車の軽自動車に乗り込み、僕はポイントT一六を目指す。愛車が軽自動車とは何ともしみったれていると思われるかもしれないが、下手に高級車を乗り回して目立つよりは、どこにいても目立たないようなありふれた車の方が、僕にとっては都合がいい。それに、軽自動車であれば、たとえ反対派に壊されるようなことがあったとしても、後悔が少なくてすむ。  真夜中なせいか、ほとんど車は走っていない。おかげで、僕の車は順調にポイントT一六へ向けて走ってゆく。カーステレオから流れるラジオは、ニュースで大阪駅爆破事件を取り上げている。僕が最初にニュースを耳にしてからもう四時間以上が経っているが、消防の必死の努力にも関わらず、いまだ鎮火されていないらしい。死傷者の数も二千人を超えているようだ。おそらく、大阪市内の病院は、患者の受け入れで大混乱だろう。
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