After the Earthquake

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 車から出ると、湿気の多いむわっとした夏の蒸し暑い空気が僕の体を包み込む。じっとしていても汗が噴き出してきそうな暑さに、僕はひどく不快さを感じながら、歩いてポイントに向かう。周囲に人気がないせいか、やたらと自分の足音が響くような気がしてならない。あるいは、誰かにつけられているのではないだろうかと、思わず何度も後ろを振り返ってしまう。傍から見ればただの不審者にしか見えないだろうということくらい僕にもわかっている。それでも、僕はそうせざるを得なかった。それくらい、僕の中の緊張感は高まりを見せているのだ。  もちろん、誰かが僕をつけている可能性なんて殆どないに違いない。僕たちは普段から自分が賛成派のメンバーだと悟られることのないように慎重に行動しているし、ここに来るまでの間だって、つけてくる車がいないか、注意深くバックミラーを確認した。それより何より、支部の幹部クラス以上の人間であれば反対派にチェックされているかもしれないが、僕のような下っ端の兵隊までいちいちチェックするような余裕は反対派にだってないだろう。  僕は緊張感を必死に押し殺しながら、できるだけキョロキョロと周囲を気にしないように、真っ直ぐに前を見据えて歩くようにした。そうすることで、僕の緊張感も少しずつではあるが和らげられていく。  五分ほどかけてポイントT一六に辿り着くと、そこには黒いワンボックスカーが停車してあり、その脇に黒いスーツの男が立っていた。男は僕の姿を視界に捉えると、ゆっくりとした足取りでゆっくりと近づいてきた。 「アタルさんですか?」  男は僕まであと一メートルというところまで近づいてきて、尋ねてきた。僕は黙ったまま頷いた。 「それでは、車にお乗りください。チーフ・アーサーがお待ちです」  男はそう言うと、僕に背を向けて、背筋を真っ直ぐ伸ばして姿勢よく車まで歩いていき、運転席に乗り込んだ。僕も車まで歩いていくと、歩道側の扉を開けて、後部座席を覗き込んだ。五人乗りの後部座席は、すでに四席が埋まっている。運転席と後部座席の間はカーテンで仕切られており、前方の様子を伺うことはできない。ドアを開けてすぐの所の空いている席に僕が腰を下ろすと、車は静かに出発した。  それが合図だったかのように、誰かが、 「アタル、コードを」  と言った。 「N二四〇三」
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