After the Earthquake

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 僕はもう一度、念のためにメンバーの様子を確認する。少なくとも、誰かが起きだしてくるような気配もない。僕とクロエはそのまま足音を立てないように扉の方に向かい部屋を出た。それから、音を立てないように慎重に梯子を上る。誰かが気づいて追いかけてきたらどうしようと思うと、気持ちが急いてしまう。僕は何度も深呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと梯子を上った。  地上に出た僕たちは、廃工場を抜け出し、通りに出た。午前一時前とあって、辺りに人気はなく、車もほとんど走っていない。外に出たとたんにクロエが逃げ出すということもなかった。彼女は速足で歩く僕の後について来る。そのとき、背後からタクシーがやってきた。何という幸運だろうと、無神論者ながら僕は神に感謝し、手を挙げてタクシーを停めた。そして、クロエを先に乗せてから僕も乗り込む。 「どちらまで行きましょう?」  運転手は行き先を尋ねてくる。だけど、何よりもまず、この近辺から離れなければならない。 「とりあえず、車を出してください」  僕は運転手にそう伝えた。運転手は怪訝な顔をしながらもタクシーを走らせ始める。五分ほど走ってから、僕は自宅近くにある公園を行き先に指定した。タクシーで三十分ほどの距離だ。そこで一度自宅に戻り、愛車に乗り換えて箕面大滝まで向かえばいい。僕の家から箕面大滝までは車で一時間くらいだ。午前三時には十分間に合う。  タクシーがずいぶん走ったところで、ようやく緊張から解放された僕は、クロエに話しかけた。 「とりあえず、僕は信用してもらえたということでいいのかな?」  僕の問いかけに、クロエはフフッと小さく笑ってから、 「完全にというわけじゃないけどね」  と答えた。 「じゃあ、どうして僕について来てくれたの?」 「何となく、あなただけは他のメンバーと違うような気がしたの。それだけよ」 「そう思ってもらえただけでいいよ。ありがとう」  僕は礼を言った。  クロエに聞いてみたいことは山のようにある。だけど、全くの第三者である運転手がいるこの状況で、下手に賛成派や反対派の話をするわけにもいかない。どうせこれから、二人で箕面大滝まで一時間近くドライブしなくてはならない。話ならそのときにいくらでもできるだろう。僕はそう考えて口を噤んだ。
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