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僕は視線を前方から離すことなく答える。
「そのリーダーって信用できるの?」
「わからない。だけど、行ってみる価値はあると思ってる」
「アタルさんはどうするつもりなの? 反対派に助けてもらうってことは、そのまま反対派に入るつもり?」
「反対派に入るつもりはないよ」
「どうして? やっぱり、東京を、日本を捨てて、独立した方がいいと思ってるから?」
「いや、正直に言うと、今となっては独立するかどうかなんてどうでもいいのかもしれない。だけど、僕の妹と親友が、反対派に殺されたんだ。だから、僕は反対派に入ることはできない。たとえ、僕を助けてもらうことができたとしてもね」
「妹さんと親友さんが殺されたって、どうして? お二人とも賛成派のメンバーだったの?」
クロエは次から次へと質問を繰り出してくる。本当は僕の方が質問したいはずだったのに、いつの間にやら、僕の方が答える側に回ってしまっている。だけど、とりあえずはこれでいいのかもしれない。彼女との会話に慣れなければ、訊きたいことだって訊けるはずがない。
僕は、クロエの問いに、首を横に振った。
「僕の妹も親友も、賛成派でも反対派でもない、普通の人間だよ。ただの公務員さ」
「公務員?」
「ああ、福岡市役所に勤めてた。だけど、反対派が福岡市役所を爆破しただろう? それで、僕の妹と親友は犠牲になったんだ。テレビで二人の名前を見たとき、僕はこの世の終わりかと思うくらいに絶望したよ」
「なんか、変なこと訊いちゃってごめんなさい」
クロエは僕の隣で小さく頭を下げた。
「いいんだよ。君が殺したっていうわけじゃない。それに、僕たち賛成派だって、あちこちで県庁やら市役所やら駅やらを爆破している。もちろん、それによって関係のない人たちが犠牲になってる。もしかしたら、君の大切な人も犠牲になってるかもしれない」
僕の言葉に、クロエは黙り込んだ。もしかしたら本当に彼女の家族や恋人などが、賛成派の攻撃の犠牲になったのかもしれないと思い、少し不安になった。もしそうであるとすれば、僕が反対派を憎むのと同じように、彼女も賛成派を憎んでいるはずだ。場合によっては、その憎しみが僕一人に向くことだってないわけではないだろう。
僕は黙り込むクロエに尋ねてみる。
「君の両親や兄弟は?」
「両親も兄弟もいないわ」
クロエはそう言うと、小さくため息を吐いた。
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