After the Earthquake

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「亡くなったの?」 「兄弟はもともといないわ。だけど、両親は亡くなった」 「賛成派の攻撃で?」 「ううん、そうじゃないの」  クロエは首を横に振った。その言葉に、僕は自分の中の不安が少しだけ和らいだ。だけど、これ以上この話題に深く切り込んでいっていいのかどうか、僕には判断できない。もしかしたら、彼女にひどく嫌なことを思い出させてしまうかもしれない。そう思うと、僕はどのように言葉を続けていいのかわからなかった。  だけど、そんな僕の心配をよそに、クロエの方から語り始める。僕はそのタイミングで、ラジオのヴォリュームを少しだけ落とした。 「私の両親はね、三年前の大地震の時に亡くなったのよ。私たち家族は、あのころ東京に住んでいて、ごく普通の生活を送ってた。長い間、関東に大地震が来るという話はあったけれど、心のどこかでは、そんなもの来るはずないって思ってた。だってそうでしょう? 毎日変わらず朝が来て、特に代わり映えのしない日々が続いて、そんな中で、あんな地震が突然襲ってくるなんて誰が想像できるというの? どんなに警鐘を鳴らされたところで、頭の中ではわかっていても、心ではそんなに簡単に信じきれないわ」  たしかにそうかもしれないと、僕は思った。いつか関東に大地震が来るという話は、多くの学者が語っていたし、テレビでもよく特集されていたから僕だって知っていた。だけど、僕だって心のどこかでは、本当にそんな地震が来るのかと半信半疑だったところがある。おそらく僕以外の誰だってそうだったのではないだろうか。本当に心の底からそれを信じていたとしたら、もっと早くいろんな措置が取れたはずだが、実際にはそうしなかったせいで多くの人々が犠牲になったのだから。  クロエは窓の外を眺めながら、もう一度小さくため息を吐いた。 「あのときは、本当に地獄にいるのかと思ったわ。この世の終わりが来たんだと思った。周りの家もみんな倒壊して、あちこちで火の手が上がってた。私の家の隣に住んでいた夫婦は、完全に家の下敷きになっていた。助けようとしても、あまりにも多くの被災者がいたせいで、助けの手も足りなかった。『助けて、助けて』と涙を流しながら亡くなっていく人を何人もこの目で見たわ。もう、私の心は壊れそうだった」 「君は助かったんだね?」
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