After the Earthquake

87/150
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
「幸いなことに、私の家族はみんな家の外にいて助かったの。私の家も完全にぺっちゃんこになったんだけどね。私たちは避難所に身を寄せて、何とか毎日を過ごしていたわ。周りのみんなもそう。苦しい中でも、少ない食べ物をみんなで分け合って、一日でも早く元の生活を取り戻し、東京を復興しようと誓い合って頑張っていたの。もちろん、私の両親もね」 「それなのに、どうして君の両親は亡くなったの?」 「助けに行ったのよ、家の下敷きになった人たちを。もう、消防だとか自衛隊だとかじゃ足りないくらいの人たちが家の下敷きになってた。一般の人間も力を合わせなければ、助けられる生命も助けられない状況だったの。だけど、その救助現場で事故が起こって、父も母も自分が建物の下敷きになったの。助け出された時には、もう息をしていなかったわ」  クロエの方から、鼻を啜るような音が聞こえ始める。彼女が泣いているのだということは、すぐにわかった。本当はこんなときに気の利いた言葉の一つでもかけられればいいのかもしれない。だけど、不器用な僕にそんな芸当などできるはずもない。僕にできることは、彼女が啜り泣くその声を黙って聞いていることくらいだ。  クロエは再び黙り込んだ。車はもうすぐ千里中央に到着する。そこまで行けば、箕面大滝まではもう少しだ。とはいっても、阪急箕面駅前からぐねぐねとした山道を登らなければならない。夜の山道でそんなにスピードを出すわけにもいかないから、まだまだ時間はそれなりにかかる。  車が新御堂筋から離れた辺りで、再びクロエが口を開いた。 「両親が死んだあと、私は東京を離れたの。もう、一人で東京にいる理由もなかったし、東京にいると両親のことを思い出して辛かったから。私は親戚を頼って名古屋に移ったの。とはいっても、親戚にいつまでも頼る気はなかった。仕事が見つかれば、自分で部屋を借りて、自立するつもりだった」 「それで、仕事は見つかったの?」 「わりとすぐにね。関東からずいぶん多くの人が地方に移動していたから、就職は難しいかもと思ってたんだけど、拍子抜けするくらいにすんなりと決まったわ。何となくだけど、あの頃はまだ被災者を助けなきゃっていう雰囲気が、日本中どこに行ってもあったのよね」
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!