After the Earthquake

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「たしかにそうかもしれない。大阪だってそんな雰囲気だった。僕の会社にも、数人だけど、関東の方から移ってきた人が中途就職してきたからね」  実際、僕の勤めていた会社では、五人ほど関東から移住してきた被災者が中途採用された。少なくとも、僕が就職してからそれまで、僕の勤めていた会社では新卒採用しかなかったから、それがどれくらい特別な扱いだったのかは、今になって考えてみても簡単にわかる。それくらい、日本中が地震被災者を助けようという雰囲気に満ちていたことも事実だ。だけど、地方にだってキャパシティというものがある。キャパシティを超えれば、やがて疲弊していく。結局、それが反対派の結成に繋がっていったというわけだ。  いつの間にか、クロエの方から鼻を啜るような音は聞こえなくなっていた。そして、僕の車は箕面大滝へと向かう山道にさしかかる。山の麓の住宅街を抜けると、道の両脇は完全に木々で覆われて明かりもなくなる。片側一車線の道路だが、道幅は決して広くない上に、かなりきついカーブが連続している。気を緩めて運転していると、あっという間に事故を起こしてしまうに違いない。正直に言うと、昼間であっても僕はこの道を運転するのがあまり好きではない。それが夜となれば、その緊張感は想像を絶する。もはや、話をしながら運転するなどということはできそうにない。だけど、そんな僕の横で、クロエは話し続ける。 「だけどね、気が付くと、地方が公然と日本からの独立を叫ぶようになってた。賛成派という巨大な地下組織も形成されていた。私にはそれが許せなかった。私も、私の両親も、ずいぶん辛い思いをしながら、それでも東京の、日本の復興を願ってた。多くの犠牲になった人たちや、私の両親みたいに心半ばにしてこの世を去った人たちからすれば、日本からの独立なんて許せるはずもない。冗談じゃないって思った。私は何とかしてそれに反発したいと思ったの。そんなとき、友達から反対派のことを聞いたわ。話を聞いたとき、私にはこれしかないって思ったの。私はすぐに反対派に加入の意思表示をしたわ」  クロエはそこまで話すと、少しだけ間を置いてから、 「ねえ、聞いてる?」  と尋ねてきた。 「うん、聞いてるよ」
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